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名古屋地方裁判所 昭和43年(行ク)2号 決定 1968年3月30日

申請人 西山勇 外八五名

被申請人 田原町教育委員会

主文

一、被申請人が申請人目録第二記載の申請人らに対し、昭和四三年三月一五日付でなした同申請人らの児童ら(同申請人らと各児童との関係は別紙申請人と児童との関係目録第二記載のとおり)をそれぞれ田原町立中部小学校から同町立神戸小学校へ転学させるべき旨の転学処分は、本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

二、申請人目録第一記載の申請人らの通学校指定処分の効力を停止するとの申立を却下する。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

理由

本件行政処分執行停止申請理由は、別紙申請の趣旨および理由に記載のとおりである。

そこで、右申請の理由の当否につき判断する。

まず、申請人目録第一記載の申請人らは、被申請人が右申請人らに対し、昭和四三年三月一五日付でなした通学校指定処分の効力の停止を求めるので、この点につき判断するに、疏第一号証の一ないし一二、第二号証、第三号証の一ないし一四によれば、被申請人が同年一月二九日付をもつて右申請人らに対しその児童らをそれぞれ田原町立神戸小学校へ通学させるべき旨の通学校指定処分をなし、右申請人らが同年二月二日被申請人に対し右指定処分を同町立中部小学校に変更されたい旨申立てたこと、その結果被申請人が同年三月一五日付をもつて右申請人らに対し「昭和四三年度新入学児童について」との通知をなしたことは認められるけれども、これは、同申請人らの学校教育法施行令第八条にもとづく右変更申請につき被申請人において相当でないとの判断をなしかつこれを通知するとともに念のために前掲通学校指定処分のとおり入学させるべきことを通知したに過ぎないものと解すべきであつて、同日付をもつて新たな学校指定処分をなしたものとは認められないから、その余の判断をするまでもなく理由がないものと言うべきである。

次に、申請人目録第二記載の申請人らは、被申請人が右申請人らに対し同年三月一五日付でなした転学処分の効力の停止を求めるので、この点につき判断する。

本案訴訟が同年三月二八日当裁判所に提起されたことは右訴訟事件記録に徴し明らかであり、疏第四号証の一ないし三九および被申請人田原町教育委員会委員長河合徳一審尋の結果によれば、右申請人らが被申請人の承認のもとにその児童ら(主文第一項掲記)を田原町立中部小学校に就学させたところ、被申請人が右申請人らに対し同月一五日付で同年四月一日よりその児童らを同町立神戸小学校へ就学させるべき旨の転学処分(以下「本件転学処分」という。)をなしたことが認められる。

ところで、被申請人は、右申請人らの児童らについて本来神戸小学校区であるべきを特例として右中部小学校への通学を認めてきたものであり、毎年入学時期において関係保護者から昭和四三年四月一日より神戸小学校に転学させる旨の誓約書が提出されており、その特例期間が昭和四三年三月三一日をもつて満了するので本件転学処分に及んだ旨主張するが、学校教育法施行令第五条第二項によれば同一町内に二校以上の学校が存する場合には教育委員会において該児童の就学すべき学校を指定する建前となつているに過ぎず、また、同施行令によれば転学処分を認めうる場合とは、同施行令第六条の要件に該当するか、同施行令第八条の該児童の保護者の申立があつた場合に限るべきであるところ、本件転学処分が同施行令第六条の要件に該当することを認めるに足りる疏明はなく、疏第七号証の二ないし七によれば右申請人らはその児童を中部小学校に引続き就学させることを強く希望しているのであるから、右誓約書をもつて同施行令第八条に基づく該児童の保護者の申立と解することもできない。

そして疏第七号証の一ないし七、第八号証、および被申請人田原町教育委員会委員長河合徳一審尋の結果を綜合すると、右申請人らの居住する川岸地区の児童は昭和三〇年以前からわずかではあるが中部小学校に就学していたところ、同三五、六年ころには同地区の殆んど全員が右中部小学校に就学するに至つたものであること、本件申請人らの児童らが右小学校に就学を続行することを強く希望していること、川岸地区から神戸小学校までの通学距離は約二、四〇〇米で中部小学校までの距離の三倍強にあたること、通学路の不備等通学条件が悪いこと、中部小学校における児童収容能力には支障がないことがいずれも認められる。

右の事実によれば、合理的な理由がないのに転学を余儀なくされることによつて該児童に与える教育上、人格形成上の影響は甚大であり、その保護者たる右申請人らが蒙る回復の困難な損害を避けるため右転学処分の効力は本案判決確定に至るまで、これを停止すべき緊急の必要があると言うべきである。

よつて、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田正武 日高千之 八束和広)

(別紙)

申請の趣旨

一、被申請人が申請人目録第一記載の申請人等に対し、昭和四三年三月一五日付でなした同申請人等の児童等(同申請人等と各児童との関係は別紙申請人との児童との関係目録第一記載のとおり)をそれぞれ田原町立神戸小学校へ通学せしむべしとの通学校指定処分、並びに同目録第二記載の申請人等に対し同申請人等の児童等(同申請人等と各児童との関係は別紙申請人と児童との関係目録第二記載のとおり)をそれぞれ田原町立中部小学校から同町神戸小受校へ転学せしむべしとする転学処分は名古屋地方裁判所昭和四三年(行ウ)第一三号通学校指定処分並びに転学処分取消請求事件の本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

二、申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由

一、申請人等は、すべて田原町に居住する者でそれぞれ別紙申請人と児童との関係目録第一、第二記載のとおり児童の各保護者である。

二、被申請人は、学校教育法、同施行令に基づき児童の入学期日通学校の指定等をなすべき権限を有する行政庁である。

三、申請人等を含めた田原町川岸区民は、川岸区に居住する住民の児童等を従来通り田原町立中部小学校へ通学を認められるよう被申請人に陳情した結果、昭和四三年一月二八日被申請人の代表者教育委員長および事務局長たる教育長、教育委員全員の出席する席上において、申請人等の児童を中部小学校へ通学せしめる旨の事前の了解が万場一致で可決された。その際、手続に関しては、被申請人において一応神戸小学校への通学指定処分をするが、申請人等が通学指定校変更申立をなせば中部小学校への指定変更を認容するとの了解ができた。

四、右了解に基づき、被申請人は昭和四三年一月二九日付をもつて右申請人等に対し、その児童等の通学校を神戸小学校とするとの処分をなした。これに対して申請人等は、同年二月二日付をもつて児童等の通学校を中部小学校へ指定変更されたき旨の申立をなし、同日被申請人は正式に会議を招集開催し、全員一致で申請人等の右申立を認めて、右児童等の通学指定校を神戸小学校から中部小学校に変更する旨の議決をなし、申請人等に対しこれを告知した。

五、右申請人等は、その希望が達せられ、その児童等が兄弟姉妹ともに中部小学校へ通学できることを喜んでいたところ、突如昭和四三年三月一五日付で被申請人より次のような通知を受けた。

「昭和四三年二月二日付就学通知に対する異議申立書が提出されておりましたが、下記の通り決定したので通知します。

1、異議申立書についてはこれを認めない。

2、新入学児童については就学通知のとおり神戸小学校へ入学させること」

六、右通知は、被申請人が児童の入学すべき学校を指定する権限を有するが故に右申請人等を拘束する行政処分であるが、次のとおり違法無効なものであるから取消を免れない。

(一) 教育委員会々議規則違反(田原町教育委員会規則第三号)

右規則第四条によれば「会議の招集は会議開催の場所及び日時、会議に付議すべき事件をあらかじめ委員会委員に通知して行う。委員長は、会議の招集を行つた場合には、直ちに会議開催の場所および日時、会議に付議すべき事件を告示するものとする。前二項の規定に拘らず急施を要するときはこの限りでない。」と定められている。

然るに右議決をなした昭和四三年二月一四日の教育委員会は前記通学校変更問題に関する議題は全く告知されず招集手続も告示もなされておらず手続的に全く違法である。しかも、急施を要する事情も全く皆無であつた。二月には二日、九日と正式に教育委員会は開催されているのである。

教育委員会の議事は民主的教育行政を担保するため公開するのが原則であり、そのため告示が要件とされ且、傍聴人規則も制定されているのであるからこの手続瑕疵は重大な違法事由である。

(二) 教育委員が首長の同意を得た上合法的に全員辞任を議決した後に招集の際の議題となつていない通学校の問題につき審議し反対無効を唱える議員退席の下で決定したものであるから無効である。

被申請人の当時の教育委員は全員同年二月七日に辞任を決意し、町長に対し辞表を提出したが教育委員の辞任については教育委員会としての同意を要すると地方教育行政の組織及運営に関する法律第十条に定めがあるので同月一四日そのためにのみ全員が集り、二名辞表を提出して残りの議員の辞任を三回に亘り合法的に可決し、全員の辞任が法的に完了し行政庁の内部的には辞任手続は完了した後右議決をしたのであるから教育委員会として会議は成立せずこれは明らかに無効である。そもそも辞任した以上教育委員会の構成メンバーとして如何なる法律的決定も為し得ない事は明白である。

(三) 被申請人からの前記行政処分は親権の共同行使と云う民法の規定に違反した無効のものである。

即ち、前記通知は申請人等のうち、父親のみに対して為されたものであり親権の共同行使を原則とする憲法民法の下に於ける行政処分としては当然無効である。

(四) 学校教育法施行令第五条の要件たる二ケ月前を著しく徒過し無効違法である。

七、被申請人は申請人目録第二記載の申請人等に対し突如昭和四三年三月一五日付でその児童等を既に新入学時より通学していた中部小学校より神戸小学校に対し同年四月一日より転学すべき旨の転学処分をなして来た。

(一) しかし右処分は学校教育法同施行令第六条の要件を欠く違法なものである。

即ち、学校教育法施行令第六条は左の三つの要件の場合のみ強制的に転学を発動出来るものとしている。

1、新たに学齢法に記載された児童生徒等

2、第十条の通知を受けた学齢児童(退校処分の場合)

3、小中学校の新設廃止等によりその就学させるべき小中学校を変更する必要を生じた児童生徒

然るに、田原町に於ては昭和四二年度中に新設廃止等がなされる学校は存在せず教育委員会もそのような事を議決した事はない。よつて全く法律要件を欠く違法な行政処分と云はなければならない。

(二) また、同施行令第八条は保護者の申立があつた場合、指定変更処分ができる旨定めているが、本件につきかかる申立はなかつたのであるから、申立なくしてなした本件処分は違法である。

(三) また右処分には、前項(三)記載と同様の瑕疵が存在し無効である。

八、ところで、申請人等の居住する川岸地区と田原町立神戸小学校との通学距離は、約二四〇〇メートルであるのに反し、同町立中部小学校とのそれは約七〇〇メートルであり、しかも、神戸小学校への通学路は道巾も狭く且つ悪路であつて風雨の強いときなどの通学は非常に危険である。これに反し中部小学校への通学路は整備の行届いた道路であつて、僅かに一ケ所国道を横断するのほか全く危険はない。

そのため、川岸区民は旧田原町と旧神戸村との町村合併の前である昭和三二年よりその児童等を中部小学校へ通学させていたのである。その後昭和三五年に両町村は合併されて今日に至つたものであるが、最近になつて、神戸地区住民の圧力により長年に亘る右慣行を無視して川岸地区の児童を神戸小学校へ通学させるようとの動きが起り、前述のとおり申請人等を含む川岸地区住民の陳述の結果従前どおりその児童等を中部小学校へ通学させるとの了解が成立し、これに基づいて第四項記載の手続を了したのである。

しかるに、その後一部神戸地区の住民が町長に対し、川岸地区の児童を神戸小学校へ通学させなければ一切の行政に協力しないと脅迫したため、町長が教育委員会を動かし、本件処分に至つたものである。そもそも教育行政は、児童の利益を第一義とし、これにのみ奉仕すべくあらなければならないにも拘らず理由ない他地区住民の不当な圧力によつて、これが歪められたのである。

九、そこで申請人等は御庁に本件各行政処分の取消を求める本訴を提起したが、児童の教育上回復し得ない損害を避けるため、本件申請に及んだ次第である。

申請人目録第一記載の各児童は、本年四月一日より小学校一年に新入学するものであるが、小学校入学は人生における社会生活の第一歩を意味し、児童にとつてその教育上、人格形成上極めて重要な時期にある。この時期にあたり、心ない大人の紛争のために、就学すべきものと指定された学校は兄姉の巣立つたそれと異なる上、通学諸条件が叙上のとおり悪い神戸小学校であり、本訴の解決の暁には中部小学校へ移るという混乱を余儀なくされているのである。これによつて、右児童等に与える教育上の悪影響は、実に大であるといわなければならない。

また、申請人目録第二記載の各児童は、本年三月まで一年乃至五年の間学び馴れ親んだ中部小学校を理由もなく追われ、折角できた学友とも離別し、学友のいない、しかも通学条件の悪い神戸小学校へ転学を余儀なくされるのである。中部小学校においての児童収容能力は充分で、現に三月までは正常に授業が行なわれてきたのである。しかるに、合理的理由もない、しかも違法な本件処分は、右児童等の何ものにもかえ難い貴重な利益をふみにじり、混乱に陥れるものである。

新学期は四月一日から始まるが、何ら合理的理由のない違法な本件各処分のなされた現状維持するならば、教育上、人格形成上最も重要な時期に在る右各児童等に対しては勿論のこと、その保護者たる申請人等に対して、回復し得ない損害の生ずること明白であり、これを回避することが現在の時点における良識ある人のとるべき緊急の手段である。

現在、右回避の手段は司法裁判所における本件各処分の執行停止の決定を得る以外になく、至急右決定あらんことを切望し申請する次第である。

(別紙申請人と児童との関係目録第一、二省略)

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